事件

勝又拓哉被告の第二審判決簡記!難解報道記事!現在や生い立ちは?

・勝又被告、2審東京高裁でも無期懲役判決

栃木小1女児殺害事件の高裁判決が下りました。報道される判決内容は、その概要のみで法律に疎い方にはよく理解しがたい部分も多いかと思います。私なりにかいつまんで説明していきます。

栃木小1女児殺害事件は、2005年12月。栃木県今市市(現日光市)に住む小学1年生の女児吉田有希ちゃん(当時7歳)が、学校からの帰り道に行方不明となって、茨城県常陸大宮市の山林で刺殺体遺体となって発見された事件です。

吉田有希ちゃん

 12月1日、有希ちゃんが行方不明となって、家族が駐在所に捜索願を出し捜索が開始されましたが見つかりませんでした。翌2日、自宅から60キロも離れた茨城県内の山林で遺体で発見されたのです。その後の捜査では、有力情報はなく、犯人検挙は困難を極めました。3年後の2008年には、有力情報に対して200万円の懸賞金がつきました。2014年栃木県内居住の男が関与を認めるという報道がなされ、その後、勝又拓哉(1982年生)が逮捕されました。この時、情報提供者2名に報奨金が支払われました。この情報がどのような内容であったのかは報道されていません。

・勝又被告は別件逮捕されていた

勝又被告は、殺人罪や死体遺棄ではなく、商標法違反で逮捕されたのです。この逮捕事実は、偽ブランド品を所持していたことで、母親共々逮捕されています。

なぜ商標法違反なのでしょうか?

商標法違反というのは、偽ブランド品を自己使用のために所持していたのでは違反にはなりません。殺人罪や死体遺棄について捜査中の勝又について、母親と生活していた自宅の捜索で偽ブランド品が複数発見されたのでしょう。

また、パソコンの解析などで、偽ブランド品を販売していた事実が明らかとなったのでしょう。これはいわゆる別件逮捕では?という疑問が生じます。別件逮捕と言えば全てが違法の様に考えがちですが、商標法違反で逮捕して、商標法違反の取り調べをすれば違法とは言えず、殺人罪などで逮捕できないからと言って、商標法違反で逮捕して殺人罪などで取り調べると違法となる可能性があるということです。

・勝又被告は台湾出身、日本に帰化していた

勝又被告は、台湾出身で、2009年に日本に帰化しています。両親も台湾人で、母親は日本人と再婚しています。この日本人の義父が、勝又について、「母親の偏愛を受けて育ち、欲しいものは何でも与えられ、パソコンにのめりこみ、昼夜逆転の生活だった」と話したそうです。また、勝又の自宅からは、猟奇的な内容の児童ポルノやロリコン趣味をうかがわせる内容の資料も発見されたそうです。

・勝又被告は自白していたが、全ては自白していなかった?

勝又被告は、逮捕後、犯行について自白したのです。「ナイフで胸のあたりを10回くらい刺した」「6~7秒だった」と。しかし、裁判になってからは、「警察から『有希ちゃんを殺しましたというまで寝かせない』『殺してごめんさないと50回言わないと晩飯抜きだ』と責められ、また、『自白すれば罪が軽くなる』と利益誘導された。

また、「検事に責められ、自分が犯人だと思い込まされた」「今では何で自白したのか自分でも当時の気持ちは理解できない」と一貫して無罪を主張し続けていたのです。しかし、1審の宇都宮地裁判決では、勝又被告側が無罪を主張しましたが、無期懲役の判決を受けました。

確かに人間というものは弱いものですから「お前が犯人だ」と言われ続ければ「自分が犯人なのかな」と思いこむことはないとは言い切れないでしょう。しかし逆もあります。弁護士から「何も証拠はない。君は犯人じゃじゃないんじゃないか」「遺体から君とは別の人間のDNAが検出された。君は犯人じゃない。」と言われ続ければ、実際にはやっていたとしても「ひょっとしたら俺はやってないんじゃないか。」「自分が経験してきたと思っていたことは妄想だったかもしれない」「俺がやったんじゃないんだ」「俺は犯人じゃない」と思いこみ、実際にはやったかどうかわからなくなるということもあると考えられます。また、取り調べ中は、録音録画がされており、それを再生確認すればその自白が真になされたものか、強要などされて自白したものなのかは素人の裁判員でも分かるはずです。

1審宇都宮地裁判決では裁判員裁判が行われ、この自白状況によって有罪とされたのです。

・起訴事実特定を自白に頼り過ぎた検察

勝又被告は、第1審判決を不服として控訴し、本日(8月3日)、東京高裁における控訴審判決においても無期懲役が言い渡されました。裁判官は、1審の宇都宮地裁判決を破棄したのです。これは、1審では、勝又被告の自白に基づいて、起訴事実つまり、「いつ、どこで、どのような方法によって殺害した」という点が特定されていたのですが、それでは矛盾が生じるということから、「いつ、どこで」については、幅を持たせ、「1日午後2時38分頃から2日午後4時ころまでの間」「栃木県内又は茨城県内若しくはその周辺」と矛盾を無くして、裁判所が公訴事実を特定したのです。

ということは、無理に、被告人の自白に頼って、犯行時間や犯行場所を事細かに特定した警察や検察の捜査機関を批判した判決内容となったということです。いわば、裁判官は、「勝又被告が有希ちゃんを殺したことは間違いないが、検察官が特定した起訴事実は、詳細に特定しすぎたため、矛盾が生じている」と下したのです。これならば、勝又被告の弁護側が主張する「自白通りであるならば現場に大量の血痕が残るはずだが残っていない」という主張に対して矛盾しないということになるのです。

・DNAはすべての犯罪で検出されるわけではない

もう1点、弁護側が主張する遺体からは、勝又被告のDNAが検出されなかったという点について、裁判官は、「DNAは必ず付着するものではない」と断じました。確かにDNAは、体液や血液などが遺留されていれば検出されるのですが、お喋りした際に口内から出る唾液の飛沫や手に付着した汗などでは、検出されないこともあるのです。

弁護側の主張のもう1点、「『勝又被告でもない、警察関係者でもない第三者のDNAが検出されていた』のだから真犯人がいる可能性がある」という点については、「犯人の存在を示すものではない」とも断じました。この点については、DNA 型検出作業前に指紋検出作業を行った過程で付着したということで落ち着いたようです。

・勝又被告は「秘密の暴露」を供述していた

裁判官が最も重要視したのは、勝又被告の逮捕当初の自白なのです。この自白の中に犯人しか知りえない情報があった点なのです。これは「秘密の暴露」と呼ばれ、自白供述の中で、「秘密の暴露」が無ければ価値のない供述とされます。一方、「秘密の暴露」が数多く網羅されていれば、その供述の信憑性が高まるのです。

勝又被告の供述を吟味した捜査機関が、同供述から、「いつ・どこで・どのように殺害したか」を特定して起訴事実としたのですが、裁判官は、「これには無理がある」という判断をしたのです。時間や場所について、もっと幅を持たせるような起訴事実にしなければ有罪とはならないと2審東京高裁の裁判官が判断したのです。

これから分かるように、逮捕当初に勝又被告がした自白は、「秘密の暴露」があったのですが、全ての犯罪事実を特定しうるまでの供述ではなかったということになります。勝又被告は、犯行を認めて自白し、量刑を軽くしようと考えたのでしょうが、その一方で、全てを供述しなかったということなのでしょう。

逮捕後の勾留中に自白をする一方で「これを言わなければひょっとしたら無罪になるかも知れない」と考えながら取り調べに応じたのではないかと考えられます。しかし、刑事法に対する知識がなかったからでしょうが、「秘密の暴露」をしてしまっていたのです。その点で犯人であることの証明となり、再び無期懲役刑を言い渡されたのだと考えられます。

・事実上、刑が確定

勝又被告は、それでも無罪を主張しているようです。勝又被告の現在は拘置所で収監中です。次は、最高裁判所への上訴しか残っていませんが、死刑でもない事件で最高裁で裁判が開かれることはなく、上告棄却となって無期懲役刑が確定するでしょう。

 

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